目次＞ 　　その１　　　 その２　　　 その３　　　 その４　　　 その５　　　 その６（完）

マウナケアから帰って１週間が経った。帰国直後の３日は、体の中に満ちていたものが溢れ出るばかりで、ただただボーっと何も手に付かない状態であった。　ダンナは、”マウナケア病”と言ったけど、この病、日食病よりヤバイかもしれない。だって特定の時期、特定の場所でしか感染しない日食病と違い、その地に行けば、いつでも感染してしまうのがマウナケア病なのだから。
そして、おそらく特効薬はない。

マウナケアでこの不治の病が発病した時、「また来るよね」と企画担当のＴ氏が囁いた。新しい悪魔の登場である。

とにかく体を鍛えねばならない。次回もＯ氏のような、気配りのできる人がいるとは限らないのだし、ダンナが行くわけないし・・・と視線を向けると・・・
「だいじょぶ、だいじょうぶ！　次もＯ氏に頼んで、一緒に行ってもらえばいいんだから」と、ダンナがにっこり笑う。
あっ、そうね！　心配することなかったんだわ。これで一件落着。
来年は、絶対赤道儀を持って行こう。

茶道の中で、“稽古とは、一より始めて十を知り、十よりかへ（え）る、もとのその一”という言葉があるのだけれど、今だから地球をしっかり踏みしめて、一から天文やってみようかななんて思ってる。
金星表面から夜空を見上げたとしても、分厚い硫酸ガスの大気を通して星を観ることはできない。火星では、大気は薄いけれど砂嵐が邪魔をするだろう。
きらきらとゆらめく星がきれいなのは、この地球でそこそこの大気を通して観るから。それはとても幸せな事のような気がしてきた。

マウナケアの星空は、たまに味わえればいい。でもそれだけじゃなくて、強烈なジェット気流をかいくぐって、この目に届くゆらめく星の光も、大切に観ていきたいと思う。
こんな気持ちになるなんてね・・・自分がとても不思議。

と、突然うちのファックスがぴいひょろ騒ぎ出す。
送られてきたのは、”カナダでオーロラとヘール・ボッブ彗星を観るツアー”の企画書である。

犯人はＴ氏。実はマウナケアで観測している最中から、“来年２月に、カナダ行かない？　行くよね”と悪魔の誘惑を仕掛けてきていたのである。

本当言うと、これにもびっくり。場所こそ違うけれど、“来年３月にアラスカでオーロラとＨＢ彗星”観望ツアーを、個人的に企画しようと考えていた私なのだ。またまた同じ事を考えてるなんて！！！　
行かない訳ないじゃないのサ。天下のマウナケアでお願いしておいたんだもの、ヘールボップ彗星はきっと明るく尾をなびかせてくれるはず。

さて、Ｔ氏企画の”オーロラとＨＢ彗星”は、どんなものだろう？　
ファックスによると、観測場所には、”シャーレ”という施設があり、暖をとったり仮眠できるとある。しかも彼は走り書きで、私に　”ご意見、ご希望”を求めている。
火遊び由美サンに、”ご希望”なんか求めたらどうなるか・・・フフフフ・・・今度はサークル仲間を誘おう！
きっと面白くなるわ。

というわけで、”カナダ・オーロラ紀行”につづく・・・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

完　　(yumi）