目次＞ 　　その１　　　 その２　　　 その３　　　 その４　　　 その５　　　 その６（完）

悪魔はいつも、何の予告もなくやって来る。
驚きと混乱の中で、新しい世界が開かれてゆく・・・。
と言うわけで今回は、１９９６年に出現した”悪魔”の話から始めよう。

それは“百武第２彗星を追ってオーストラリア遠征”計画がポシャり、「星の里」の星祭りが大騒ぎのうちに終わった後、晴れ女である私が唯一嫌いな季節、”梅雨”に突入し、天文する気分が今一低下していた頃だった。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
我が家を訪ねて来たその悪魔は、ダンナの天文友達の姿を借りていた。
天文機材収集家であり、百武彗星フィーバーの時には、東京の職場から那須高原へ、毎晩撮影に通っていた彼は、人の顔を見るなりこう囁いた。　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「ハワイに行きませんか？」

ハワイ？・・・今時のギャルがお手軽買い物ツアーで群がるハワイへ？・・・
「え？また何で？」
彼の顔を見ながら、頭の中で　”ハワイ”と　”天文”がイタチごっこを始める。

「もしかして、マウナケアで星見しようって言うんじゃ・・・」
「そう、そのマウナケアです」
にこやかな顔が急にマジに変わる。
「だって、登れないでしょ」
「いや、それが行けちゃうらしいんです・・・。行っちゃった人がいるんです」

絶句する私達に、悪魔の説明はパニックを引き起こすものだった。

世界最先端の天文台が集まるマウナケア。
そこに行けるのは天文学者や技術者だけと、何となくみんなが思ってる。本当は、途中に関所があるわけでも、門番がいるわけでもないのに。

マウナケア山頂に通じる道は、あくまで公道であって、天文学者がとやかく言える事ではない。けれど、誰でも行けるとなったらドッと人が押し寄せ、世界ベスト３の１つという好条件での観測ができなくなる。
それを恐れた天文学者達は、情報を極力抑え、自分達の牙城としての概念を作り上げている。

・・・嘘みたい。でも、ありそうな話。

しかしこの情報化時代に、そんな概念はいずれ崩される。その前に、密かに行ってしまおう。人が押し寄せ始めたら、お仕舞いである。

”人がやっていない事をする”　”人が思いつく前にやってしまう”
火遊び由美の大好きな言葉である。悪魔はそこにつけ込んだ。

そしてこれが、別世界への旅の始まりだった。

(yumi）